小学生の頃から、学生時代を通して、国語のテストの時間が好きでした。
新しい小説、新しい詩、新しい随筆に出会う楽しさ。
問題文の文章が面白い時は、幸せな気持ちになりました。
ピヨ太が塾のテストを受けるようになって。
持ち帰る国語のテストの出題文に目を通し、わくわくした気持ちを思い出しました。
「今回の問題は面白かった。」ピヨ太のそんな感想を聞くのも、また嬉しいことです。
そんななか・・。
5年生 記述力模試
今回の出題文は、かなり心に刺さってきました。
『こんぱるいろ、彼方』
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価格:1,650円 |
8000字近くの物語文が出題されました。
主人公は、5歳の時、家族とともにベトナムからボートピープルとして日本にたどりつき、帰化した女性。
日本人の男性と結婚してからは、母親の出自が原因で子ども達がいじめられないようにと、生い立ちを隠しています。
二十歳の大学生になった娘がベトナム旅行を計画したことをきっかけに、自分の生い立ちを娘に告げます。
それから、1週間。
娘は、病気で臥せっている間も口を利かず、快復してからは、家に寄りつかず、お風呂と寝るためだけに帰るような生活。
そんなシーンから、出題文は始まります。
母親を無視するような態度。不機嫌さ。
それが、母親がベトナム人であり、ボートピープルで来たことを知ったのが理由なら、許せない。自分の祖国をばかにするのなら、対決する。
二十年間必死で隠してきたにも関わらず、母親はにわかに沸き起こった正義感で憤っています。
夜遅く帰ってきて、無言で自室に行こうとする娘を呼びとめます。
「話がある。」という母親に、「わたしからも聞きたいことがある。」と、娘。
娘の疑問は、母親の想定していなかったものでした。
「なぜ、そんな大事なことを隠していたのか。」「フェアじゃない。」と娘。
母親は、しどろもどろ。
娘が二十歳になったら。社会人になったら。
確固たる方針のないまま、先延ばしにしてきた告白。
実兄からの連絡や、夫の言葉で、ようやく、半ばやけくそで明かすことのできた生い立ち。
娘は、そこを突いてきます。
いじめを心配したから言わなかったという母親に、娘が返したのは、自分が信用されていないという失望感。大好きな外国人の友達もたくさんいるのに、「外国人はいじめられる」という前提への怒り。
そして、すでに娘は、ベトナム、ベトナム戦争、ボートピープルについて、調べ始めていました。
ベトナムのことも、戦争のことも、ちゃんと知って理解したいという娘。
娘から、ベトナムのことを聞かれ、何も答えられない母親。
母親が自分の母国を知ろうともしないで生きてきたことを、娘は「親だから許せないっていうか、見過ごせないことってある。」と言い放ちます。
寝室に引きあげる娘の名前を呼び、母親は言います。
「どうもありがとう。」
娘が自分の気持ちを伝えてきたことへの感謝の言葉。
「それにしてもわたしって、意地悪な娘だよねえ」と、娘。
母親は思います。
「今日が子育て卒業の一次試験だったのかもしれない」
若者は、時に、曇りのない怜悧な思考力で、大人を批判的に見る時があります。ごまかしや、都合の良い言い訳や、物事と真剣に向き合い、知ろうとしない態度に。
自分にもそんな時期があったような気がします。それが、いつの間にか、批判的に見ていた大人そのものになっている。出題文のこのシーンを読んで、そんな事を思いました。
思春期の入り口に立つ我が子が、「子育て卒業の一次試験」を課してくる日が、いつか来るのだろうか。その時、どうするのだろうと、思いました。
今回は、ここまでです。