今回は、日能研5年の「栄冠への道」のテキストにあった物語文の読解の問題(ステージⅣ第8回)が印象に残ったので、書いてみます。
問題文は、氷室冴子さんの「いもうと物語」からの抜粋です。
氷室冴子さんというと、「なんて素敵にジャパネスク」が有名です。平安時代をテーマにしたラブコメディを書いた「ライトノベル」だったと思います。
「いもうと物語」から抜粋されたこの問題文は、ラブコメディとは全く違い、小学4年生の女の子の友達関係から生じる不安定な気持ちを、上手に切り取って、うまく表現されている物語でした。
少し長くなりますが、物語の内容を紹介します。
ひときわおとなしくて、気がつくと仲間外れになっているようなエミ子。
チズルは、病欠したエミ子に給食のパンを届けにいった時、エミ子から親に内緒で飼っている子猫を見せてもらったことがきっかけで、子猫を見にいくため、たびたびエミ子の家に遊びにいくようになる。
しかし、チズルが遊びに行っても、エミ子が自分に気を使いすぎたり、子猫の話しかしないこともあって、そろそろ飽きてきた。
ある日、チズルはエミ子の誘いを断り、リツコ達とソリ遊びをすることにした。
チズルは、誘いを断ったのでがっかりしていたエミ子が気になり、「子猫を見に行こう」と、リツコ達を誘って、やっぱりエミ子の家に行くことにした。
チズルが呼び鈴を押すと、バタバタとエミ子が出てきた。目を真っ赤にして、泣いていたようだった。
「入んなよ。寒かったでしょう。ココアのみなよ。」とエミ子。
「友だち連れてきたんだ。子猫見たいんだって。」とチズル。
エミ子は、すごい目つきで、リツコ達をにらみつけていたあと、
チズルに対して、「誰にも言わないっていったのに!二人だけの秘密だったのに!」。
エミ子は、大粒の涙をこぼし、「帰れっ、バカ!」。
チズルは、子猫のことを誰にも言わないとの約束を破ったのは悪いけど、それにしても、エミ子が泣いてしまった上、「帰れっ、バカ!」と怒鳴られたのが、ショックだった。理由がよく分からないけど、可哀想なことをしてしまったのか。
翌朝、学校でチズルがエミ子に話しかけると。
「昨夜、子猫、捨ててきた。隠れて飼うのがムリだから。学校、来るとき、すてたとこ通ったら、もう、雪でダンボール埋まってた。」と声をころして泣いた。
「もう、無理してこなくていいよ。子猫がいないんだから。」とエミ子。
チズルは、すぐにこごえ死ぬのが分かっているのに子猫を捨ててしまったエミ子の気持ちが、わかるようで、わからないだけに、不安で、たまらない思いがするのだった。
以上が、物語の内容です。
この物語のポイントの一つは、「なぜ、エミ子は、死ぬのが分かっているのに、今まで隠れて育てていた子猫を捨ててしまったのか。」です。
友だちの少ないエミ子は、自分と仲良くしてくれるチズルとの関係がとても重要で、子猫がいるおかげでチズルが家に遊びに来てくれるので、子猫もとても重要だったんですね。
ところが、チズルがエミ子の誘いを断ったり、その後、エミ子の家に他の友達と一緒にきたことで、二人だけの秘密にしてた子猫のことをチズルが他の友達に話してしまったことが分かります。
エミ子にとって、これは耐え難く、「チズルなんて知らない。チズルなんて嫌いだ。」との気持ちが爆発してしまいます。その感情に耐えられなくなり、「チズルなんて嫌いだから、チズルを呼ぶために必要だった子猫も、もういらないんだ。」との衝動から、死ぬと分かっていても、子猫を捨ててしまいます。
このようなエミ子の気持ちを読み取るのは、小学生には難しいのではと思います。
物語の登場人物であるせいか、話の中のエミ子は、少しこじらせているように思います。
けれど、誰でも、自分とは特別の関係と思っていた人が、相手はそれほど自分のことを考えてはいなかったと感じられる出来事があったことで、ショックを受けることはあると思います。
ピヨ太も、このエミ子の気持ちを理解するのは、なかなか難しいようでした。
「好きである気持ちと、強い憎しみは、表裏一体で近い感情になる時がある。好きである気持ちの反対は、憎しみではなく無関心であること。」
と説明してみると、曖昧な表情で頷いてくれましたが。
このような気持ちを上手に切り取った、こんな物語をなにげなく感じられるけれど、細部まで行き届いている文章で書くなんて、氷室冴子さんは、小説の名手なんだなあ、と思いました!
「国語の日能研」という言葉を聞いたことがあるような気がします。
国語のテキストに、このような良い文章を盛り込んであることが、とてもありがたいです。
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今回は、ここまでです。