今回は「1億円の壁」問題は、どのように是正するのがいいのか? についてです。
ところで、「1億円の壁」とは何のことなのでしょう?
「サク式」(今さら聞けないファイナンス)というサイトや公認会計士伊藤英佑氏のサイトに説明がありましたので、これらを簡単にまとめてみます。
・2021年9月の自民党総裁選で岸田前首相が候補者だった時、所得が1億円を超えると税負担率が下がっていくという「1億円の壁」の打破を理由に金融所得課税(株式売却益に対する税)を増税する意義を語っていたが、首相就任後にトーンダウンした。
・なぜ、所得が1億円を超えると、税負担率が下がっていくのか?
・日本は累進課税になっていてるが、所得税の最大税率は45%で、4千万以上所得の場合は45%のまま税率は増えない状況となっている。
・ところが、1億円以上の所得の方の場合、給与所得のみの場合は少なく、株・投資信託の売却益などの金融所得が多くなっている場合が多い。
・そして、株の売却益などの金融所得に対する課税は、源泉分離(=他の所得とは分離されて課税される)となっていて、金融所得が4千万円でも、10億円でも、いくら稼いでも一律約20%の課税となる。
・このため、最高税率45%である4千万円を超えれば超えるほど、金融所得課税が20%であることが効いてくる。なので、日本の納税者の所得税負担率をグラフにすると、だいたい所得1億円の方の税率が一番高くなり、それを超えると税率が下がってくる。
これが「1億円の壁」なんだそうです!
確かに、所得が1億円を超えれば超えるほど、所得税率は1億円の方よりどんどん下がっていくというのは、疑問に思えます。
岸田元首相もこの点について、問題意識があったようです。
そして、今、国民民主党は、行き過ぎた格差を是正するとして、現在20%の金融所得課税について、
「金融所得課税を30%にする」(そして総合課税と分離課税を選択できる)
という案を打ち出している訳です。
これについては、SNS上で猛反発が生じているそうです。
(2025/2/7:Abemat imes)
これは理解できそうです。
現在、インフレ下において貯蓄から投資の流れに乗って、株式投資を行う方が多くなっているので、金融所得税率が20%から30%になることに反対が多いのは当然かと思います。
また、ホリエモンも大反対していて、次のように主張しています。
「ドン・キホーテの創業者の安田さんなんか、シンガポールに家族ごと移住した。シンガポールやドバイは、金融所得課税がゼロ。日本で金融所得課税を30%にしたら、優秀な事業者のモチベーションがわかなくなる。ベンチャー創業のストックオプションを行使した場合にも30%。スタートアップ応援にも逆行する。」
これも説得力ありますね。
優秀な事業者やベンチャー起業家がシンガポールやドバイに逃げ出すような税制も、日本の経済社会には良くなさそうです。
ということで、自分としても、金融所得課税を30%に増税するのは反対です。
とはいいましても、非常に大きくなっている経済格差を是正することは重要なのではないでしょうか。
それでは、どのように是正するのがいいのでしょうか?
一つ検討する価値がある方法を見つけました。
ビル・ゲイツがインタビューで語っていた方法です。
(2025/2/4 朝日新聞掲載)
・莫大な富を持った人々には税金をしっかり払って、慈善事業に寛容であって欲しい。
・非常に多くの富を持つ人がいるのは、ある意味で狂った世界です。ある人が「15兆円の富を持っている」と聞いたら、若い頃の私は「ふざけている」と思ったでしょう。
・私は、相続税などのより累進的な税制を支持しています。
・なぜなら、世代を超えた富の移転は最小限にすべきと考えるからです。
・そうした税制は、慈善事業への関心を高め、権力の集中を抑えられると思います。
これには、大きくうなずいてしまいました。
「行きすぎた格差」については、相続税をより累進的にすることで、ある程度是正できそうです。
直接「1億円の壁」を解消するよりは、格差是正が本来の目的なので、こちらの方がよい方法の気がします。
そして、これは、格差の固定化、つまり、富裕層に生まれた者はより富んでいき、そうでないものはそこから抜け出すことが困難である状況を少しでも変えることにもなります。
なので、未来を担う若者により公平にチャンスを与えることになりそうです。
そして、莫大な富を相続しても相続税が高くなるので、成功した事業者は、自分の納得いく慈善事業に寄付をしていくことにもつながるという訳です。
ビル・ゲイツのような、世界的に大成功して、莫大な富を得た方が主張すると説得力がありますし、「本当に立派な考えを持っているのですね」と思いました。
日本で実際に導入するとなると、種々のハードルがあるのでしょうが、是非、
【莫大な富を有する方へのより累進的な相続税】
これによって、行き過ぎた格差を是正し、将来を担う若者により均等にチャンスを与え、そして、慈善事業に寄付された資金が将来の日本を明るくしてくれるといいな、と思いました。
今回は、ここまでです。