今回は、英語の勉強が楽しくできる本を紹介します。
かなりハイレベルの英文が紹介されていますが、中にはそれほど難しくない英文もけっこうな数ありますので、そのようなものをピックアップして読む方法もあると思います。
それでは、まずは、この本に紹介されている英文のうち、難しくなくて中高生にも役に立つものを一つ紹介します。
アガサ・クリスティの「チムニーズ館の秘密」に出てくる文章とのこと。
「But there's no accounting for luck.」
というものです.
この文には、大学受験上、非常に重要な熟語が2つ含まれています。
一つは、「There is no doing」、もう一つは、「account for ~」です。
そして、意味は次のとおりになってます。
①「There is no doing」=~することはできない。
②「account for ~」=~を説明する
①の方は、熟語でない「There is no 〇〇」と思ってしまって「〇〇がない」と訳してしまいがちです。ところが、熟語として使っている場合に「〇〇がない」としてしまうと、間違った訳になってしまいます。
ということで、「But there's no accounting for luck.」は、
「しかし、幸運というものは説明することができない」
という意味になります。
ところで、この本が面白いのは、過去に出版された翻訳書にある誤訳を紹介した上、正解の訳を書いてあるところです。
例えば、この「But there's no accounting for luck.」の場合、そのすぐ下には、こんな風に書いてあります、
✖しかし、そんな幸運のありかを示した地図などはなかった。(A氏の翻訳書)
〇しかし、好運とは説明のつかないものだから。(B氏の翻訳書)
つまり、A氏の訳書の訳は誤訳で、Bの訳書の訳は正しい、という訳です。
更に、次のような説明も書いてあります。
『A氏の「死との約束」、「死への旅」(いずれもアガサ・クリスティ)は、実に正確な、模範とするに足る訳なのに、他の訳書に奇訳が多いのは下訳でも使われたせいだろうか。』
という感じ。
けっこう、面白いですね!
「But there's no accounting for luck.」は、高校生で習う重要熟語が使ってあるにも関わらず、過去に出版された翻訳書の中には、
「✖しかし、そんな幸運のありかを示した地図などはなかった。」みたいな誤訳があったりするんですね。
翻訳書を出すような方は、ある程度有名で英語力も非常に高い方なのでしょうから、本に書いてある通り、誰かに下訳を頼んで、全部を精密にチェックしないで本になってしまったのかもしれません。
これを見ると、『「There is no doing」=~することはできない。』は、プロでもうっかりすると間違えてしまう要注意熟語のようです。
それでは、もう一つだけ紹介します。
「The dead woman had not the gift of commanding love.」
これは、アガサ・クリスティの「スタイルズ荘の怪事件」からだそう。
そして、紹介されている誤訳はこんな感じです。
✖亡き夫人は愛情というものを持たない人だった。
✖亡くなった夫人は生まれつき立派な愛情というものを持っていなかった。
〇故人は愛される素質を持っていなかった(→おばば注:本の作者の正訳)
これは難しいですね。
辞書を十分読み込み、そして、文の構造を精査しないと誤訳にあるような、正反対の意味に訳してしまうおそれがあります。
この場合の「command」は、「命令する」ではなくて、「~を集める」、「~を起こさせる」の意味の他動詞で、「commanding love」は、「他人から愛情を集める」、「他人から愛される」という意味になるのだそう。
(なお、「command」のこの意味については、大学受験では記憶する必要はかならずしもありません。)
ただ、この本を読みますと、誤訳がされている英文全体でみるとやっぱり難しいものが多いのですが、間違い自体は、基本文法、基本単語、基本熟語の間違いもけっこうあるようです。
改めて、大学受験に出題される英単語、英熟語、英文法が重要だってことが分かりますね!
ところで、この本はおばばが大学生の頃に読んだことがあって、最近になってまた読みたいなと思って新品をアマゾンを探したところ、見つかりませんでした。
今は売れる見込みがないのか、又は、他人の翻訳書及び翻訳者の実名を挙げて、その誤訳を紹介する形式が受け入れられない時代になったのか、新品を見つけることはできなかったので、中古で買ってみました。
そういえば、この本の名前を紹介してませんでしたね。
「推理小説(ミステリー)の誤訳 弁護士が検事になって追跡した辞典」
(古賀正義著 サイマル出版)
です。
筆者である古賀さんは、元々弁護士だったのですが、英国の有名な刑事事件の法廷記録を翻訳する旺文社の文庫について、法律用語の翻訳を中心として監修を行ったとのこと。
そのような経験をした上で、シャーロック・ホームズやアガサ・クリスティの訳をしてみて意外に翻訳書に誤訳が多いので、それらをまとめてこの本にしたそうです。
この本において、過去に出版された翻訳書にある多くの誤訳が正されているのを見ると、古賀さんは、英語の翻訳能力が極めて高いことが分かります。
そして、この本は誤訳を通じて、英語の難しさ、面白さを味わうことのできる名著だと思います。
ちなみに、レベル的には大学受験レベルを超えているので、必ずしも受験対策には適しませんが、本当の英語の力つけるために楽しく勉強できる本だと思います。
今回は、ここまでです。